第298回 グッバイ・ミスター河野!

  「苦言熟考」はかつて「日本の政治家の中で、いまもっとも筋を通して発言しているのは自民党河野太郎衆議院議員だ」という趣旨の意見を述べたことがあります(【第228回 信頼できそうなのは河野太郎氏ただ一人】http://d.hatena.ne.jp/kugen/20120121/1327097913)。
  主として、官僚が牛耳る、あるいは官僚的な政治運営をこまめに批判し、その改善を求めつづけていたからです。
               *     *
  その前言を撤回します。
  河野氏が2013年12月10日に発表したブログ「特定秘密保護法について」(http://www.taro.org/gomame/)がその撤回の直接の原因となりました。
  官僚にはちゃんと不服が言えた河野氏が、特定秘密保護法に関しては、同法成立前にはひと言も発言しなかったのに、成立してしまうと、まるで“勝ち馬”にあわてて乗ろうとでもいうかのように、自分が属する自民党とその政府に擦り寄る、見苦しいブログを公表したのです。各種の世論調査で70パーセントから80パーセントの国民が懐疑的に受けとめていた特定秘密保護法の擁護に河野氏はつっ走ってしまったのです。
  それも、たとえていえば、<腐った果物よりは腐りかかっている果物の方を国民は食らうべきだ>というような“屁理屈”を駆使することで…。河野氏はもう、従来の、筋を通す政治家ではなくなってしまいました。
               *     *
  上のブログの、次の個所を読んでください。
  <特定秘密保護法案が廃案になっていたら、この「特別管理秘密」による管理が続いていくことになります><法律によって定められた「特定秘密」はダメで、行政が行政の中だけで定めた基本方針(しかも全文は非公開)により各省庁がばらばらに運用する「特別管理秘密」ならば良いというのは、明らかにおかしいと思います>
  「明らかにおかしい」のは河野氏の方です。だって、特定秘密保護法に反対している人たちの中に、“各省庁がばらばらに運用する「特別管理秘密」”の方がよかった、という声がありました?
  それに、「法律によって定められた」法律の方が無条件にましだ、という保証はいったいどこにあるのです?
  “法律によって定められた「特定秘密」”のその定められ方と内容が悪すぎる、というのが「特定秘密」に反対する者たちの意見なのですよ。
  「特定秘密」がそれ自体で極めて優れた法律(“国民に喜んで食べてもらえる新鮮な果物”)であることを証明しようともせずに、というよりは、証明できないくせに、これまであった(河野氏が事実上“腐った果物”=悪法だと呼んでいる)「特別管理秘密」よりもましだ、だから黙って受け入れるべきだ?
  これは詭弁、卑怯者の論法ですよ。
  だれも食べたいとは言っていない“腐った果物”と、“これからもっと腐ることが確実だと多くの日本人に思われている果物”を比べて、まだ腐っていない果物の方がましだから、これを食べるべきだ、という意見の方がはるかに「おかしい」でしょう?
  “すでに腐った果物”も“これからもっと腐ることが確実と思われる果物”も国民には食べさせてはならない、というのが真摯な政治家がすべき発言でしょう?
               *     *
  河野氏はこうも言っています。
  <特定秘密保護法により、かならず国民が選んだ政権の大臣が秘密の指定をすることになるのは前進です>
  「前進」ですって?
  その「国民が選んだ政権の大臣」の下で官僚たちが自分たちが思うままに振舞っていることを批判しつづけてきたのですよ、河野氏、あなたは。官僚たちは「国民が選んだ政権の大臣」の言うことなんかにはちゃんと耳を傾けない、いや、「国民が選んだ政権の大臣」のことなどまったく無視しつづけていることを熟知していたから、あなたは官僚批判をつづけていたのでしょう?
  いままで「国民が選んだ政権の大臣」を事実上無視して勝手気ままに振舞ってきたきた官僚たちが、特定秘密保護法に関してだけは、大臣・政治家たちに簡単にコントロールされる?
  それは「そんなばかな!」という話でしょう?もしも、官僚というものは「国民が選んだ政権の大臣」に簡単にコントロールされるものなのだ、というのなら、これまで河野氏が熱心にやってきた官僚批判は何だったのでしょう?
  特定秘密保護法が成立した途端に、河野氏は官僚組織との“戦い”も放棄してしまいました。
               *     *
  <法律に基づいて行う「特定秘密」より、法律にも基づかない行政府の中で完結してしまう「特別管理秘密」の制度のほうが好ましいとは思えません><特定秘密保護法案が廃案になっていれば、特別管理秘密の運用が続いたわけですが、そのほうがよかったとは私は思いません>
  何度でも指摘しておきます。「そのほうがよかった」とだれかが言っているのを聞いた記憶があるのですか、河野氏?わたしはありません。なかった何かをあったこと、あることにして論を進めるのは危弁家、煽動家の専売特許に属するものです。
  特定秘密保護法は、いかがわしいところが多すぎる、国民の大多数が納得できるものにするべきだ、それができないのなら廃案にするべきだ、という“反対派”のどこに問題があるのでしょう?
  そんな政治家がもしもいるとしての話になりますが、良心的な政治家なら、どんな法律でも、それ自体を、国民の大多数が求める形にしたいと考えるはずでしょう?
               *     *
  河野氏への大きな失望を表現する目的で、あえて下品に…。 
  国民の大多数が、どうも変だ、怪しいと感じているのに、「これは、いままであそこに隠されていたクソではありません。新鮮なミソなのですから、安心して食っていいのですよ」と言って実は“腐ったミソ”を食わせにかかる詭弁政治家としてこれから生きる覚悟を、河野氏は定めたようです。
  そんな河野氏に愛着はありません。国民の基本的人権ということに関しては、日本の中国化、北朝鮮化に向かって邁進している自民党の中枢部に居心地がいい場所を見出したあなたの姿をいつか見せられても、驚きはしません、ミスター河野。
               *     *