第292回  危なすぎる「特定秘密保護法案」

  「THE JOURNAL @ ニコニコ支局」を舞台に興味深い論説を書きつづけている田中良紹という人が、安倍晋三内閣と自民党がいまその成立に異常な熱意を抱いている「特定秘密保護法」について、大新聞各社が触れない角度から、重要な発言をしています。
  まず、そこから長い引用をさせてもらいます。
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公明党の二枚舌】 2013-10-20 (http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar371496
  <私は「そもそも税金で雇われた官僚が税金を使って集めた情報は納税者に帰属する」と書いた。その上で、公表すれば国民の利益、すなわち国益を損ねる恐れのある情報は公表を秘匿することが出来る。従って国益に反しない時期が来れば秘密情報は広く国民に公開される。また公表を禁じた時期でも国民の代表である与野党の議員には開示されなければならない。そうしないと国家が重要問題についての判断を誤る事になる。それが民主主義国家の原理であると書いた>
  <ところが日本は秘密情報を官僚が独占してきた。官僚は大臣はおろか最高権力者である総理大臣にも情報を報告する義務はなく、恣意的に選んだ一部の政治家に知らせてあらかじめ官僚が導きたい方向に政治を操ってきた。そして秘密情報を「棺桶の中にまで持っていく」のが当然とされ、納税者国民には全く知らされないままであった。つまり日本には国民が主権者である民主主義の原理が作動していなかった
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【機密情報は誰のものか】 2013-09-20 (http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar348487
  <肝心なところで欧米と機密情報についての考え方が違う。それは機密情報は誰のものかという点である。どの国にも外交や軍事で他国に知られては困る機密情報があり、情報を漏らした者は国益に反するとして処罰される。しかし機密情報が誰のものかを考えると、税金で雇われた官僚が税金を使って集めたのだから納税者に帰属すると考えられる
  <機密情報を漏えいした官僚は罰せられるが、国会議員で処罰の対象となるのは官邸にいる一部の与党議員だけとされている。これは何を意味するのか。機密情報は一部の与党議員にのみ提供され、国民の代表である野党議員には提供されない事を意味している
  <欧米の議会でしばしば開かれる「秘密会」が我が国では滅多に開かれる事がない。秘密会」がない事は与野党の国会議員が重要な判断材料を与えられないまま、官僚のシナリオ通りに動かされている事を意味する
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  「特定秘密保護法案」について、ほとんど報道機関は「報道の自由」「国民の知る権利」などという点だけに絞って、この法案に大きな懸念を示し(たふりをし)ていますよね。あたかも、報道機関だけが「知る権利」の代行者ででもあるかのように。
  でも、待ってくださいよ。そもそも、その「知る権利」を守ろうというので、社命を賭けて、政府や官僚、検察などの権力と戦った報道機関がかつて日本にありました?
  まして、国民のじかの代表である国会の「知る権利」を守るために骨身を削ったことは?
  この法案に関する報道機関の、安倍政権と与党に対する“抵抗”はまったく不十分なものだと思います。
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  一方で、国会とその議員たちも「国民の知る権利」を守ろうと真剣に戦ったことがありませんよね。
  <機密情報は一部の与党議員にのみ提供され、国民の代表である野党議員には提供されない事を意味している>ことが実は<民主主義国家の原理>に著しく反するものであることがちゃんと分かっている国会議員はほとんどいないということなのですね。
  本来期待されているようには日本の国会は機能していないのです。
  国会、つまりは、国会議員たちは、自分たちが国民に対してどんな義務と責任を負っているかが分かっていません。権力に近いところにつながってカネを得て、次の選挙で再選されることしか考えないらしい彼らの頭には、自分たちが「官僚のシナリオ通りに動かされている事」などはどうでもいいのですね。国民の権利を無視して官僚が自分たちの「導きたい方向に政治を操ってきた」ことに何の疑問も羞恥心も抱かないのですね。
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  「国民の知る権利」に関して日本の政治史上もっともよく知られているのは、いわゆる「西山事件」でしょう。
  毎日新聞は「西山事件」を「沖縄返還に伴う密約を報じて記者が逮捕された」事件だと集約しています(【秘密保護法案:森担当相「処罰対象は西山事件に匹敵」】2013年10月22日)。
  その「西山事件」で有罪判決を受けた西山太吉・元毎日新聞記者は今度の「特定秘密保護法案」について<「沖縄密約は憲法違反の重大な政治犯罪。政府高官が保護されるべきではない違憲、違法な秘密を『秘密』としたことは法治国家を根底から覆すことだ。政府に都合の悪いものを全部隠せる法律を認めてはならない」と話した>そうです。
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  国家公務員法(教唆の罪)で西山氏を有罪とした理由について裁判所は「当初から、秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥ったことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど、取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為は正当な取材活動の範囲を逸脱するものである」(ウキペディア)と述べているそうですが、「密約の真相究明は検察側からは行われなかった」(同)のです。
  国家による“巨悪”ではなく、一新聞記者の非倫理的な取材活動の方を罰して、それですませる?
  本末転倒の判決!
  つまり、あれは、密約があったかどうかについての「真相究明」を政府・官僚・司法が一体となって徹底的に妨げた事件・裁判だったのですね。
  なのに、「国民の知る権利」を守るための十分な抵抗を、このとき、国会と報道機関はしませんでした。
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  ほぼ40年後のいまになって政府・与党が国会に提出しようとしている「特定秘密保護法案」がどんなものになるかは、容易に想像がつきますよね。
  「国民の知る権利」を強化、拡大しようしているなんてことは絶対にないわけです。
  田中良紹氏が示唆しているように、官僚に牛耳られた政府与党が「国民が主権者である民主主義の原理」を無視して、ただただ権力の強化集中を図っているのです。
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  日本国民にとって安倍政権は、誠実・正直などというという言葉からかけ最も離れた、非常に危険な存在です。
  全世界に向かって平気で嘘をつく(「アンダー・コントロール!」)人物を総理大臣にしているこの政権に“好き勝手”をさせてはなりません。させていれば日本はとんでもない、住みにくい国になってしまいます。
  日本人一人ひとりの政治的成熟度がいま試されれてます。
  政府と官僚の暴走を国会が抑制できるシステムを確立しないままで、現状の「特定秘密保護法案」を成立させてはなりません。
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【「戦前を取り戻す」のか 特定秘密保護法案】(東京新聞 社説 2013年10月23日 http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013102302000123.html
  <特定秘密保護法案が近く提出される。「知る権利」が条文化されても、政府は恣意(しい)的に重要情報を遮蔽(しゃへい)する。市民活動さえ脅かす情報支配の道具と化す><「安全保障」の言葉さえ、意図的に付けたら、どんな情報も秘密として封印されかねない><最高十年の懲役という厳罰規定が公務員を威嚇し、一般情報も公にされにくくなろう。何が秘密かも秘密だからだ。情報の密封度は格段に高まる。あらゆる情報が閉ざされる方向に力学が働く。情報統制が復活するようなものだ。一般の国民にも無縁ではない。>
  <根本的な問題は、官僚の情報支配が進むだけで、国民の自由や人権を損なう危うさにある。民主主義にとって大事なのは、自由な情報だ。それが遠のく><公安警察情報保全隊などが、国民の思想や行動に広く目を光らせる。国民主権原理も、民主主義原理も働かない。まるで「戦前を取り戻す」ような発想がのぞいている>
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【秘密保護法案 国会はどう機密を共有するか】(10月24日付・読売社説 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20131023-OYT1T01308.htm?from=ylist
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【秘密漏洩「国会議員にも罰則を」 石破自民幹事長】朝日新聞 2013年11月1日 (http://www.asahi.com/articles/TKY201310310487.html
  <石破氏は、政府が恣意(しい)的に秘密指定していないかをチェックするため、非公開の「秘密会」で審議するケースを想定。議員が情報を外部に漏らしても、参院は懲罰規定があるが、衆院にはないと指摘して「秘密会での情報を漏らしたら議会を除名になるなど、厳しいものを設けるべきだ」と主張した>
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特定秘密保護法案:「反自由主義的」 米紙が社説で批判】毎日新聞 2013年10月31日(http://mainichi.jp/select/news/20131101k0000m030111000c.html
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