第195回 東京電力の“想定外”は責任逃れ

  神戸大学の石橋克彦教授が「石橋克彦 私の考え」というサイトを開いています(http://historical.seismology.jp/ishibashi/opinion/)。
  その中の大震災以後<第14回>「原発震災 破滅を避けるために」(1997年10月)に石橋教授は、通産省(当時)が「十分な地震対策」としている7項目に疑問を呈して「本当に耐震安全性は万全なのだろうか」と書いています。
  その当時の通産省は<マグニテュード7以上の地震活断層の上で起こる。原発活断層の上にはつくらないから、その直下でM6.5以上の地震は起こらない>というように主張していたそうです。これに対して石橋教授は<活断層がなくても直下の大地震が起こる>と警告していました。<北海道〜関東の太平洋岸では、沈み込んだ太平洋プレート中の深さ数十KMで、1994年の北海道東方沖地震(M8.1)のような巨大地震が発生する可能性を考慮しなければならない>と。
  2011年3月11日。この地帯にM9.0の巨大地震が発生しました。通産省は完全に間違っていたわけです。
  石橋教授はほかにも「原発にとって大地震が恐ろしいのは−−ある事故とそのバックアップ機能の事故の同時発生、たとえば、外部電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しないという事態も起こりかねない」と言い当てていました。福島第一原子力発電所で起きた事故を石橋教授は“想定していた”のです。いま、経済産業省の官僚たちと、原発所有者である東京電力が“想定外だった”言うのは明らかに責任逃れだとしか思えません。
  毎日新聞の福岡賢正記者は「発信箱」(2011年3月29日)に「すべて想定されていた」と題する記事を書いて、上の論文(「原発震災 破滅を避けるために」)の中から石橋教授の次のような指摘を引用しています。
  <最大の水位上昇がおこっても敷地の地盤高(海抜6m以上)を越えることはないというが、1605年東海・南海巨大津波地震のような断層運動が併発すれば、それを越える大津波もありうる>
  <炉心溶融が生ずる恐れは強い。そうなると、さらに水蒸気爆発や水素爆発がおこって格納容器や原子炉建屋が破壊さる>
  <4基すべてが同時に事故をおこすこともありうるし(中略)、爆発事故が使用済み燃料貯蔵プールに波及すれば、ジルコニウム火災などを通じて放出放射能がいっそう莫大(ばくだい)になるという推測もある>
  東京電力原子力関係官僚は石原教授の警告を無視してきたわけですね。備えを怠ってきたわけですね。
  大地震と大津波が引き起こした悲惨な事態をさらに、追い討ちをかけるかのように、悪くした今回の福島原発事故は、遠くない将来に、歴史書に、あれは“人災”だった−と記されることになるでしょう。
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  <<貞観津波想定を…産総研、09年に見直し迫る>> (2011年3月30日09時33分 読売新聞)
  http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110330-OYT1T00133.htm
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  <<福島第1原発:「事故起こるべくして起きた」元技術者証言>> (2011年4月1日 毎日新聞
  http://mainichi.jp/select/biz/news/20110401k0000m040179000c.html
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  <<「電源喪失で容器破損」東電報告書検討せず>> (2011年4月4日03時08分 読売新聞)
  http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110404-OYT1T00076.htm?from=top