第167回 何度でも言います 日本語をいじめないで

  国民の日本語力が低下して日本はだめになるのではないか、と真剣に恐れています。

  次のいくつかの文を見てください。
  例文1 <だっこちゃんの新シリーズ。ピンク、青など7色あり、希望小売価格は税込み1050円>(朝日新聞
  例文2 <小沢氏はこれまでに3回特捜部の任意聴取を受けており、いずれも虚偽記載への関与を否定>(産経新聞
  例文3 <菅内閣として初めての関係閣僚協議が開かれ内閣官房に情報を集約し、関係閣僚が連携を強化して問題の解決に当たることを確認しました>(NHK)

  ちょっと気を配れば分かりますよね。どの文も、前半の「かかり」と後半の「むすび」の関係が幼稚なまでに危ういのです。
  例文1と2とで使われている<あり>と<おり>は、NHKの報道が“得意”にしている、報道界でいま大流行している、実に低級な、文のつなぎ方です。日本語力を低下させている元凶のひとつです。
  1の場合では<あり>は<色>を説明しているのですから、そのあとは<色>に関する記述がなければ本来の“つながり”にはなりません。ですから、たとえば<−−7色あり、前のシリーズよりは客の選択の幅が広がった。希望小売価格はすべて税込み1050円>とすれば、かなりましな文になります。
  もっと簡潔にしたければ<ピンク、青など7色ある新製品の希望小売価格は−−>とすればいいわけですが、このような丁寧な主語の立て方は、このごろはまず見ることがありません。ほとんどの報道機関が安直に<あり><おり>を使ってそれで良しとしているのです。
  例文2の問題は、一つには、<3回特捜部の任意聴取を受けて>いれば普通は、特捜部はいくらかの成果を上げているだろう、という読む側の“期待”を<−−いずれも虚偽記載への関与を否定>と、あっさりひっくり返しているところにあります。<−−受けているが、いずれも虚偽記載への関与を否定>というのが論理的な“つなぎ”です。
  もっとましなのは、<特捜部から受けたこれまで3回の任意聴取で(は)、小沢氏はいずれも虚偽記載への関与を否定している>というものでしょう。ですが、2の場合とおなじように、こういうまとめ方ができる記者はほとんどいなくなっています。
  例文3については、前を<開かれ>と受動態にしているのに、それを受ける側を<確認しました>と能動態にしているところが問題です。<菅内閣は初めての関係閣僚協議を行い、−−確認しました>と、前後をともに能動態にしておけばよかったのです。もちろん<開かれ>を<確認されました>で受けてもかまいませんでした。
  この程度の論理の一貫性が保てない人物が“堂々と”記事を書いている日本……。

  例文4 <米首都ワシントンに隣接し保守色の強いバージニア州のクチネリ司法長官が、警察官の職務質問の際に相手の滞在資格を確認する権限を与えるべきだとの州独自の見解を示し、米メディアは3日「バージニアが論争に参加」と報道移民問題が11月の中間選挙の争点に急浮上する米国で注目を集めている>(共同通信)もかなりひどい悪文です。
  この書き方では第一に、バージニア州が保守的なのは首都ワシントンに隣接しているからだ、と捉えられかねません。
  つづく個所も論理的にしまりがなさすぎます。たとえば<−−州独自の見解を示したことを受けて、米メディアが−−と報道したことから移民問題を11月の中間選挙の争点(の一つ)と見ていた全米の有権者バージニア州の動きに強い関心を寄せ(始め)ている>の方がよほどすっきりしているはずです。

  つながりが悪い文はつながりが悪い思考からしか生まれません。悪い文ばかりを書いていると、粗末な思考しかできなくなります。報道機関がこんな拙文で満足している日本の状況は危機的なほどに悪くなっています。報道機関がよってたかって日本の知力を破壊しつづけています。