第116回 だから英語で受験できるように! 外国人の看護士・介護士

  こんな記事がありました((2009年4月14日 読売新聞)。

  見出しは「インドネシア人看護師・介護士の受け入れ人数、予定の2割
  書き出しは<日本とインドネシア経済連携協定(EPA)に基づき、日本の病院や施設が希望している今年度のインドネシア人看護師・介護士の受け入れ人数が、受け入れ予定(計約800人)の約5分の1にとどまっていることが分かった。日本語教育にコストがかかることなどが敬遠の理由と見られる

  そのコストについては<受け入れ希望が少ない背景には、EPAで来日する外国人看護師は3年、介護士は4年以内に日本語で国家試験に合格しなければ帰国を余儀なくされるという高いハードルがある。日本人と同等の給与を保証する一方で、日本語教育や試験勉強の時間を確保する必要があり、「コストに見合うだけの受け入れメリットがない」との声がある>と説明されていました。

  「苦言熟考」は2008年5月23日、<介護看護士・福祉士の国家試験は英語ででも受けられるように!>という見出しのエッセイを掲載しました。
  外国人看護士・介護士を本気で受け入れる気が日本政府にあるなら、国家資格を得るための試験は英語ででも受けられるようにするべきだ−という趣旨でした(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20081107/1226025968)。

  英語でも受験できるようにすれば、受け入れ側の病院などが<確保>しなければならない<日本語教育や試験勉強の時間>が、間違いなく、短くてすむようになります(特に、タガログ語と並んで英語を公用語としているフィリピンからの希望者の負担がどれほど小さくなるかを考えれば分かりますね)。
  そうしておけば、<日本側の事情で「2年で上限1000人」の枠を大きく下回る事態は避けたいのも事実。「出来る限り受け入れ枠に近づけたい」(経済連携協定受入対策室)と、同(国際厚生)事業団と協力して病院や施設に働きかけている>というようなみっともないことに厚生労働省はなっていなかったはずです。

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  2010年2月28日に追加

  <外国人看護師の国家試験、英訳の試験でも合格4割弱> 朝日新聞 
  2010年2月28日3時45分

  <日本との経済連携協定(EPA)に基づき来日し、看護師として働くために研修中のフィリピン人看護師候補者が、日本の国家試験を英訳した模試を受けたところ、合格基準に達したのは4割弱だった。協定では、3年以内に日本語で実施される試験を通らないと帰国しなければならない。英語や母国語での受験を認めるなどの配慮を求める声が上がっていたが、そもそもの看護事情や教育の違いも壁になることがわかった> 
  <この国家試験の実際の合格率は89.9%だったが、模試で合格基準に達したのは35.6%の21人。うち12人は試験勉強でこの過去問題を見たことがあった。初めて問題を見た人の合格率は23.7%だった。候補者はいずれも英語で看護教育を受け、来日前に3年間の実務経験もあった>
  <正答率が低かったのは、日本の社会福祉制度や、疾患の基礎的知識についての問題だった>
  <日本人と同じ問題が課されることに、将来の雇用を想定して候補者を受け入れ、支援してきた医療機関などからは「漢字の勉強が負担」「英語、母国語での受験を認めるべきだ」という指摘が多かった。だが、今回の模試の結果から、言葉に配慮しても、日本人と同レベルの合格率は遠いことがわかった>
  <フィリピンでは日本のような高齢者医療よりも、周産期医療に重点が置かれる。インドネシアでは感染症が多いが、糖尿病などの生活習慣病は少ない。各国それぞれの医療事情の違いが、看護教育にも影響している>
  <(産業医科大の)川口教授は「各国で看護教育のカリキュラムは異なり、看護師に認められている処置の範囲も違う。本来なら、制度が始まる前に調べておくべきことだ。早く分析を進め、教育プログラムをまとめる必要がある」と話す>
  <会議に参加したフィリピン大学公衆衛生学部のマリリン・ロレンゾ教授は、「協定による看護師候補者受け入れを続けるのなら、日本の病院内で国家試験をにらんだ訓練を充実させるとともに、国として模擬試験を開催するなど手当てが必要では」と話す>

  日本語で受けた人たちの合格率はゼロだったのでは?
  だから<4割弱>でも大成功だと言えます。
  受験システムを改善すれば合格率がもっとあがりそうだということなら、ぜひともそうするべきでしょう。
  日本人看護士・介護士を増やす方策を日本の政府と官僚はいまだに考えつかないようですから…。

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  このようなことになってしまったのは、厚生労働省(官僚)が、インドネシアとフィリピンとの経済連携協定をまとめる過程で、外国人看護士・介護士の受け入れには実は積極的ではなかったのに、両国の熱心な希望に押し切られて<受け入れを>を承諾したからです。

  代々の日本政府は、本当は輸入したくないのだがいつまでも拒みつづけることはできないという物品には“非関税障壁”を設けることで対処してきました。たとえば、対象物品に対する品質検査を必要以上に厳しく行うことで、その物品の輸入を難しくする、というやり方です。日本側には輸入する意図があるのにそちらがまともな製品・産物を送ってこない、と言い逃れするわけですね。

  インドネシアとフィリピンを相手にした看護士・介護士受け入れ政策も、まさに、その通りに考案・実施されています。
  <資格試験は日本語で受けてもらいます!!>
  大半の外国人就労希望者にとって、これは“非関税障壁”以外の何物でもありません。実質は、3,4年は底辺福祉労働者として働かせてやるから、(資格が取れなかったら、それはそちらの能力か努力が不足していたということだから)あとはあきらめて、さっさと自分の国に戻りなさい、というものです。
  ですから、日本政府にとっては<日本側の事情で>というのはすごく困るわけです。<日本には“輸入”する=外国人看護士・介護士を受け入れる=気は初めからなかったのではないか>とインドネシアとフィリピン側に思われるのはまずいわけです。いかにも“官僚的”な発想ですね。
  
  <「2年で上限1000人」の枠を大きく下回る事態>は厚生労働省が<国際厚生事業団と協力して病院や施設に働きかけ>たぐらいでは解決できません。この<働きかけ>は見え透いた、底が浅い“取り繕い”にすぎません。
  受け入れる気が本当にあるののら、日本政府は、受け入れやすい仕組みを構築しなければなりません。
  その気がなかったのなら、中途半端な“甘いこと”を相手に言うべきではありませんでした。

          *

  ほぼ3年前にフィリピンに移住して以来、いわゆる“メルトモ”が数人できました。2年前に知り合った一人は、たまたま、看護士養成カレッジに通う女子学生でした。マニラの南、カヴィーテ州のイムスに住んでいます。
  さて、この“メルトモ”が先日<日本に働き口はあるだろうか>と問うメイルを送ってきました。知り合ったころ彼女が<こちらで看護士の資格を取ったら将来は外国で働きたい>と言っていたことを覚えていたわたしは、日比経済連携協定の内容について(ケイタイ・メイルにしてはずいぶん詳しく)説明しました。
  ところが−−。わたしの情報提供に感謝したあとの彼女の反応はわたしの予想に反したものでした。<いえ、看護士としてではなくて、ほかの仕事で何か−。このラインで日本に仕事先を見つけるのは難しすぎるから>というのです。
  彼女はすでに<看護士として外国で働きたい>といったその<外国>から日本を排除していたのです。

          *

  日本の病院や介護施設の“人手不足”をどう解決していくのか?
  インドネシア・フィリピン両政府の要望にどう誠実に対応するのか?
  厚生労働省・官僚は“その場しのぎ”の無責任なやり方を一刻も早く改めなければなりません。

           -

  2009年4月28日に追加

  (2009年4月28日 読売新聞)
  <日本とフィリピンの経済連携協定(EPA)で、5月に初めて訪日予定のフィリピン人看護師・介護士の派遣者数が、定員の7割以下にとどまる見通しとなった>
  <世界への人材輸出国フィリピンでは、日本側の海外人材受け入れ態勢に不満の声が上がっている>
  < 政府間合意で初年度の定員は計450人とされたが、雇用主である日本の施設側では消極姿勢が目立ち、実際の求人数は355人だった。公募開始後わずか3週間で5768人も応募したフィリピン側は、完全に肩すかしを食った。20日現在の内定者数は292人にとどまる>
  < フィリピンは、英語力を武器に毎年2〜3万人の看護師、介護士を海外に送り出している。「日本の国家試験に合格しなければ帰国」との条件にもかかわらず応募が殺到した理由は、訓練生扱いでも10万円以上の月給がもらえ、比看護師の平均(2万円強)を大きく上回る好条件にあった>
  <比側には、外国人労働者の受け入れ自体に慎重な日本の姿勢にも不信感が広がる。比看護師協会のテレシタ・バルセロ会長は、「日本側は結局、我々をプロでなく、安い労働力としか見ていない」と批判している>