第115回 言語力がここまでない人が首相でいる国……

  3月中旬に読売新聞が麻生首相と単独会見を行い、その内容をインターネット版にも掲載しました。
  通常の内容発表と異なってい(ると思え)たのは、首相の言葉づかいを、(たぶん)修正せずに、できる限り、そのまま忠実に読者に伝えようとしていたことです。
  その“努力”のおかげで、日本が、日本国民が、いまどんな人物を首相にしているか=どんな不幸な状況に置かれているか=がきわめてよく分かることになりました。
  −−朝日新聞も同時期に同様の会見記事を掲載しています−−

  どんな人物?
  物事を深くは考えない−思考過程に規律がない−記憶力が弱い−日本語を大事にしたことがない−日本国民の“知力”を(自分のレヴェル以下だと)侮っている−考えが浅いから、当然、まともなことが言えない−−−

  ほかにいくつも思いつきそうですが、とりあえずは、そんなところでやめておいて、読売の会見記事の(ほんの)一部をここに引き写させてもらいます。

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 【政権の建て直し】

 ――政権の建て直しだが、端的にいってどうするか。

 首相 基本的に今やっぱり景気対策僕は景気対策という名の経済対策というのは、非常に大きいんだと私自身はそう思っております。おかげさんで今経済対策として、1次補正、2次補正やっと通って、高速道路料金とか、いろいろなものがこの3月28日の春休み入った時ぐらいから、出来るようになりますし、定額給付金の話も、3月には25%、4月に75%ぐらい、残り25%は5月、大きなところは5月に入ってからぐらいになると思いますけど、そういったようなものが出てくる。

 また、いろいろな意味で、3月に向かって今雇用調整助成金というものが、去年8800人、今年100倍位増えた形になってますけれども、雇用を維持して頂ければ、中小、小規模企業には5分の4の援助をします。また、大企業であれば、3分の2の援助をします、こういったようなものが一つ一つ全部現実問題として出て来るというようなことで、景気をきちんとやっていくというようなことをまずは、まずは目先、これを。これがやっと今スタートできることになって、これが何で早くと言われますけど、そりゃ、反対されたからできなかったんであって、やっとこれができるようになりますんで、その点は1つ何、政策が実行に移されるということなんだと思ってます。

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  * 僕は景気対策という名の経済対策というのは、非常に大きいんだと私自身はそう思っております  : 日本の政治家たちが好む<オレがオレが…>(“わたし”という単語が入れられそうな個所では必ず“わたし・僕”などを差し込む)文体の典型例で、無駄で耳障りな重複

  * 高速道路料金とか、いろいろなものがこの3月28日の春休み入った時ぐらいから、出来るようになります  : <高速道路料金とか … 出来るようになります>? 細かいことが本人にも分かっていないと、人は、こんなふうに曖昧なことを言ってごまかそうとするものです。<いろいろなものが>というのも同じです。何があるのかが首相にはちゃんとは分かっていないのです。きちんと例が挙げられるように、会見前に少しは勉強しておくべきなのですが…。

  * 額給付金の話も … そういったようなものが出てくる  : <の話>が<出てくる>のではなく<定額給付金が支給され始める>と言いたいのでは? <そういったようなもの>もずいぶん曖昧ですが、これも自分の知識に自信がない証拠だと見ていいでしょうね。<大きなところ>では分かりません。<大きな自治体>のことなのでしょうね。

  * いろいろな意味で  : これも麻生首相が好んで(実は、自分の無知を隠すために頻繁に)使う言葉です。<いろいろな意味で>が以下の文のどこに係るのかが不明です。要するに“不要”なのですね、これは。<去年8800人、今年100倍位増えた形になってますけれども>も、何のことだかまるで分かりません。<雇用調整助成金は、去年は8800人に適用されたが、今年は“100倍”88万人を対象とすることになる>という意味なのでしょうか?

  * こういったようなものが一つ一つ全部現実問題として出て来るというようなことで、景気をきちんとやっていくというようなことをまずは、まずは目先、これを。これがやっと今スタートできることになって、これが何で早くと言われますけど、そりゃ、反対されたからできなかったんであって、やっとこれができるようになりますんで、その点は1つ何、政策が実行に移されるということなんだと思ってます  : 意味が分かりますか?最悪の日本語ですよね。自分の言葉で公に語るということがどういう(厳しい)ことをかつて一度も真剣に考えたことがない=官僚が書いた文章を読むことに慣れすぎた=横着者の日本語です。麻生首相がこれとおなじことを日米首脳会談でオバマ大統領に言ったと想像してみてください。間違いなく<通訳不能>とされて、大統領には何も伝わらないでしょう。

  思考は言葉でするものです。なのに、わたしたち日本人は、この程度にしか日本語が話せない、物事を理路整然とは考えられない、つまりは、言うことがでたらめなものになってしまうしかない、無責任な、麻生氏のような人物を首相にしているのです。  
  いえ、日本には以前にも<アーウー>(大平正芳)や<言語明晰意味不明>(竹下登)などと、その拙劣な言葉づかいのせいで日本国民に揶揄された首相がいました。日本語を愚弄している=日本の政治の質を下げている=という点では、麻生首相もそれらの人物たちとほとんど同等の位置につけています。

  いやいや、定額給付金について<生活支援・さもしい>から<経済対策・わたしは受け取りますよ>までブレにブレたのに<いえ、わたしはブレてはいません>と強弁して、国民の多くに嘲笑され、しかも、それに気づかない麻生首相は彼ら以下かもしれませんね。
  
  麻生“お坊っちゃん”首相の“わがまま政治”に国民の大多数はウンザリしています。

  なのに、自分たちの党を日本の政治地図のどこに置いたらいいか=自民党とどういうふうに距離をとったらいいか=がまったく分かっていない、自民党の体質にどっぷり浸かっている小沢一郎氏に代表の座に居つづけてもらうことしかできない民主党の無能が国民のウンザリ感をいっそう大きくしています(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20081109/1226212001)。

  …日本国民にとって実に不幸な状況です。