第101回  田母神(たもがみ)論文は“対信”強度ゼロ!  2008/11/03  閲覧(641)

  田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長が「日本は侵略国家であったのか」というタイトルの論文を応募したコンクールは、耐震強度不足のホテル二つ(京都)とマンション一つ(千葉)を保有していた「アパグループ」が主催したものだったのですね。

  まったく“対信”強度に欠けた(対外的な信用度ゼロの)あのような論文を公表するのに実にふさわしい場所だと思わず苦笑したものです。

  その「アパグループ」の元谷外志雄代表がこの懸賞論文コンクール(審査委員長:渡部昇一上智大名誉教授)を企画したのは<日本が正しい歴史認識のもと真の独立国家として針路を示す提言を後押しする>ため(毎日新聞)だったそうです。

  それにしても、この田母神航空幕僚長を含めて、“大東亜戦争”肯定論者にはなぜこうも腰抜けの卑怯者が多いのでしょうかね?

  なぜといって−。

  田母神氏がこの論文で強調しているように、彼らはふつう<大日本帝国は自らの意思で戦争に走ったのではない>と言います。

  <我が国は蒋介石により、日中戦争に引きずり込まれた被害者だ><日本を戦争に引きずり込むために、アメリカによって慎重に仕掛けられたワナであったことが判明している>(読売新聞)などというわけです。

  中国、韓国をはじめとするアジア諸国に対する日本の戦争責任を認める歴史観を、“大東亜戦争”肯定論者たちは“自虐史観”だと呼んで忌み嫌いますが、<蒋介石に引きずり込まれた>だの<アメリカのワナにはまった>だの言い募る以上の“自虐”=負け犬根性を思いつくことは難しいですよ。

  論文募集の意図から知れるように、主催者は<日本を昔の大日本帝国のような“真の独立国家”に戻したいと考えているようですね。

  ですが、“真の独立国家”がふがいなく、簡単に<蒋介石に引きずり込まれた>たり<アメリカのワナにはまった>りしますか?

  情けなくも、愚かにも<引きずり込まれたり、ワナにはまったり>したのであれば、大日本帝国は国民に敬意を払うように求める資格がある国家ではとうていなかったということでしょう?

  大日本帝国をそんなふうに描き出して見せるしかできない彼らこそが“自虐史観”の持ち主です。

  そんなフヤケタ“真の独立国家”にいまさら日本を戻されてはかないません。自らの意思を自らちゃんと決められる国に日本はならなければなりません。

  自分に自信がある日本人は、日本の過去の誤りを事実どおりに認め、真摯に反省し、泣き言などは口にせず、新たで建設的な関係をアジア諸国とのあいだに築くことに目を向けるものです。

  ところで、田母神氏の論文の質がすこぶる低次元である(と思える)のは、<引きずり込まれたり、ワナにはまったり>して突入した、自主性がまったくなかった戦争から“手柄”だけはいただこうという下卑た根性に満たされているからです。

  仮に、大東亜戦争を日本が戦ったから<多くのアジア・アフリカ諸国が白人国家の支配から解放された>(読売新聞)というのが事実だったとしても(不当な歴史歪曲ですよ!)大日本帝国はそんな戦争はしたくなかったのでしょう、田母神さん?

  だったら、<アジア・アフリカ諸国が白人支配から解放された>のは<蒋介石大日本帝国を引きずり込んだ>からであり<アメリカが大日本帝国をワナにはめた>からでしょう?

  その“功績”や“手柄”は(意図的・積極的に大日本帝国を利用した賢い)蒋介石アメリカに帰すべきではありませんか?

  田母神氏の論理ではそうならなければなりません。


  田母神さん、あなたの論理には、ほかの“大東亜戦争”肯定論者たちとおなじく、“骨太の”一貫性がありません。

  一貫性が欠けている論は、たとえ善意に基づいているものでも必ず間違っていますし、悪意によるものは意図的なデマ以外の何物でもありません。

  <多くのアジア諸国大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識する必要がある>(読売新聞)ですって?その“諸国”の名を挙げてみてください。国家の公式見解として<肯定的に評価している>国の名を挙げてみてください。いくつありますか?

  <日本政府と日本軍の努力で(満州朝鮮半島の)現地の人々は圧政から解放され、生活水準も格段に向上した>(朝日新聞)という考えの中国人や韓国人もいるに違いありません。ですが、田母神さん、あなたの意見が日本人の大多数のものではない(だけではなく、自民党政府の公式見解からさえ大きく逸脱している)ように、そのような考えの現地の人びとはごく少数で、そのような意見を歴史の真実であるかのように(信じているとすれば、あなたは底なしの愚か者であるし、まして)吹聴するのは卑しい、タチが悪いデマ行為でしかありません。

  こんな程度の知力の持ち主が航空自衛隊の最高司令官にまで上りつめていたのですね!もしも−。もしも、田母神氏がこの職にあるあいだにアジアが“有事”に到っていたらと思うと、恐ろしくなってしまいます。