第46回 「拉致問題」 (再掲載) 2008/07/0  閲覧(263)

  アメリカ政府は、これまで主張してきたことから大きく後退して(ウラニウム核兵器そのものについてはここではほとんど触れないことにし、事実上)北朝鮮政府がプルトニウム生産・抽出に関わる情報を申告するだけの<核計画申告書>でも“テロ支援国家”の指定を解除する方向へ動きだしました。

  ブッシュ米大統領は<拉致問題は忘れてはいない>というようなことを言っているようですが、日本の新聞などは<拉致問題が置き去りにされた>というような論調を展開しています。

  北朝鮮との交渉が切羽詰ってくれば、アメリカ政府は“拉致問題”など無視してしまうだろうという内容のエッセイを<ステアク>は第46回に掲載していました。

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「ジョージ!」「シンゾウ!」の仲も実はこんなもの


  日本の政治家の国際的な現実感覚のなさが(恥ずかしながら)またまた証明されました。

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  きのう(05/11/2007)報じられたところによると、アメリカのライス国務長官は日本政府にすでに、北朝鮮に対する<テロ支援国家>指定を解除するかどうかの判断の材料に「北朝鮮による日本人拉致の問題が全面解決すること」という条件は加えない、と通知しているということです。

  …やっぱり。

  <テロ支援国家>の指定を外すかどうかはアメリカと北朝鮮の二国間の問題であり、日本と北朝鮮のあいだの問題がここで考慮されなければならない理由はない、といったような実にそっけない通知だったようです。

  アメリカ(と国際社会)がこの間、懸命に実現しようとしているのは<北朝鮮の非核化>です。
  いまの北朝鮮フセイン時代のイラクの何十倍も危険な国であることは明らかです。キム・ジョンイル労働党総書記が常軌を逸した、その行動の予測がつかない、非常に危険な指導者だということは間違いありません。
  そんな国が核兵器保有国になろうとしているのです。

  北朝鮮マカオの銀行に持っている口座の凍結を解除することを条件とした北朝鮮の核施設の封鎖・稼動停止などが遅々として進んでいないにもかかわらずアメリカが見せている忍耐を見れば、北朝鮮の非核化がアメリカ(と国際社会)にとってどれほどの重要事項であるかが分かります。
  “些細な懸案事項”にとらわれて北朝鮮非核化への道を踏み誤ってはならない、というのがアメリカの姿勢です。

  考えてみてください。

  アメリカは、いえ、ブッシュ政府は、イラクを不法に侵略して内戦を引き起こさせ、これまでに7万人から10万人といわれる数の民間人を死に至らしめているのですよ。
  この愚かで非道な戦争で自国の兵士3000人以上をすでに殺していて、なおも、その間違った政策を取り繕おうと増兵を行っているのですよ。

  そんなブッシュ政府が、過去何十年かのあいだに日本人が数十人拉致されたという(まったく不当ではあるが、アメリカにとっては些細な)事件を北朝鮮の非核化ができるかどうかという問題と同等の位置に置くわけがありません。
  事の軽重が分からず<拉致問題>にただこだわりつづける日本につきあって、北朝鮮に交渉遅滞の口実を与えるはずがありません。
  北朝鮮核武装すれば(日本をはじめとして!)地球上の何百万人、何千万人がたちまち生命の危険にさらされてしまうのですよ。

  <テロ支援国家>という看板を外しても、つまりは、金融・経済制裁を解除しても北朝鮮の非核化を目指すかどうかを判断する際には<拉致問題の完全解決>を条件にするようにという日本政府の嘆願にブッシュ政府が真剣な耳を貸すと安倍首相・日本政府が本気で考えていたとすれば、それは“児戯”にも等しいと言えるでしょう。

  国際政治の現実への安倍首相の無知がここでもこの上なく証明されたわけです。
  「ジョージ!「シンゾウ!」と呼び合える仲になったといっても、日米関係の実態はそんなものなのです。
  安倍首相が<ナントカノ一つ覚え>のように拉致問題を国内で悪用しているあいだにも、首相のそんな政治的思惑を無視して、世界は動いているのです。

  国内・国際情勢がこんなに見えない人物をいつまでも首相にしているようでは日本の将来は暗くなる一方です。
  こんな首相に、憲法を改定され、国際社会から孤立した国、国民が総自信喪失に陥った国、つまり、<美しい国>=<擬似ダイニッポンテイコク>に日本をされてしまってはかないません。

  日本もアメリカも<身の程を知らない>人物を国の頭に置いたばかりに、本当に苦労が絶えません。

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  <ステアク>は2007年7月17日にも下のエッセイを掲げています。

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  <チャイナ・デイリー>CHINA DAILYという新聞があります。

  そのインターネット版に「US may remove DPRK from terror list」という見出しがついた記事がありました。

  <米国は“テロ支援国家”のリストから北朝鮮を外すかもしれない>ということです。

  北朝鮮が14日に実施した寧辺(ニョンビョン)核施設の稼働停止などを受けて、米国のヒル国務次官補が語ったもので、第2段階措置である「核施設の無能力化」などが実現すれば、米国はその可能性について熟考することになろう、という内容です。

  日本、あるいは日本政府にとっての問題は…。

  「“テロ支援国家”のリストから北朝鮮を外す」には「拉致問題の全面解決が前提だ」という政府の主張がここではまったく考慮されていない、ということです。

  第46回「ステアク・エッセイ」に、わたしはこう書いています。

  アメリカ(と国際社会)がこの間、懸命に実現しようとしているのは<北朝鮮の非核化>です。 いまの北朝鮮フセイン時代のイラクの何十倍も危険な国であることは明らかです。キム・ジョンイル労働党総書記が常軌を逸した、その行動の予測がつかない、非常に危険な指導者だということは間違いありません。 そんな国が核兵器保有国になろうとしているのです。 アメリカは、いえ、ブッシュ政府は、イラクを不法に侵略して内戦を引き起こさせ、これまでに7万人から10万人といわれる数の民間人を死に至らしめているのですよ。 この愚かで非道な戦争で自国の兵士3000人以上をすでに殺していて、なおも、その間違った政策を取り繕おうと増兵を行っているのですよ。 そんなブッシュ政府が、過去何十年かのあいだに日本人が数十人拉致されたという(まったく不当ではあるが、アメリカにとっては些細な)事件を北朝鮮の非核化ができるかどうかという問題と同等の位置に置くわけがありません。 事の軽重が分からず<拉致問題>にただこだわりつづける日本につきあって、北朝鮮に交渉遅滞の口実を与えるはずがありません。
  米国の基本的な立場、優先達成目標は変わっていません。

  ヒル次官補のこの談話は日本ではまだ報道されていないようです。

  この談話を受けて日本政府が米国(ヒル代表)に(「拉致問題」を忘れてもらっては困ると)抗議したというニュースもまだありません。

  北朝鮮と米国の協議はいま、日本政府が(そんなことで)抗議できるような状況にはない、というのが現実です。