新版「徒然草」 現代語訳付き 小川剛生=訳注 (角川ソフィア文庫) より

  

 【第七五段】

 

  世に従へば、心、外の塵に奪はれて惑ひやすく、人に交われば、言葉よその聞きに随ひて、さながら心にあらず。人に戯れ、物に争いひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのこと定まれることなし。

 

  いまだ、まことの道知らずとも、縁を離れて身を閑かにし、事にあづからずして心を安くせんこそ、しばらく楽しぶとも言ひつべけれ。

 

                             (抜粋)