新版「徒然草」 現代語訳付き 小川剛生=訳注 (角川ソフィア文庫) より
【第七三段】
世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。
あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔たりぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書きとどめぬれば、やがてまた定まりぬ。
道知れる人は、さらに信も起こさず。音に聞くと見る時とは、何事もかはるものなり。
げにげにしくところどころうちおぼめき、よく知らぬよしして、さりながら、つまづまあはせて語る虚言は、恐ろしきことなり。
とにもかくにも、虚言多き世なり。
よき人は怪しきことを語らず。
(抜粋)