第236回 手術を受けるころになったようで

  白内障の検査をフィリピンで昨年の11月に受けたことは第221回の「苦言熟考」(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20111120/1321741826)で報告しました。あのときの、こちらの病院の診断は「右目については、なるだけ早く手術を受けた方がいい」というものでしたが、なにしろ、当人はフィリピンではまったくの一人暮らしの身ですから、手術後に何かと不自由なことがあるかもしれないし、さらには、保険に加入していないフィリピンでは手術料金が高すぎる、ということもあって、まあ、しばらくは様子を見てみよう、ということにしておきました。
  さて、あれからすでに二度(初回から数えれば四度)右目に“失明”状態を味わっています。いえ、“失明”というのは必ずしも正確な表現ではないかもしれませんね。テレヴィやコンピューターの画面などに視線を向ければ、そこに光源があることぐらいまでは分かるのですから。…でも、目に感じることができるのはそこまで。そこに何が写っているのか、書かれているのかは、目をうんと近づけても、まるで分かりません。当然ながら、遠いところはまったく見えません。ですから、夜、暗いところでは…。
  俗に「目からうろこが落ちる」という言い方がありますね。あれです。魚のうろこを目=瞳孔にかぶせたら外界はこんなふうにしか見えないだろう、というところまで視力が落ちてしまうわけです。
  左目にも白内障の症状は出ているのですが、幸いなことにというべきなのでしょう、右目ほどには悪化していません。近視用のレンズを新たに調整すれば視力がほぼ保たれるところでとどまっています。ですから、片方の目だけを使って暮らすということに慣れていないという不便と危険には煩わせられますが、自宅にとどまっている限りでは、動きがまったくとれないということはありません。
  大きな問題は、右目がそんな状態であるのに、どうしても自動車を運転しなければならなくなることです。マニラ首都圏の人びとの運転マナーは、とにかく「われ先に」ですから、視力が普通のときでも、道路上は危険だらけ、なのです。そんな中に片目運転で乗り出したら…。
  右目に“うろこ”がかぶさった状態なっていることに気づくのは、三月下旬の今回を除けば、いつも、朝、目覚めたときでした。一夜明けたら、右目の視力が失われていた、というわけです。
  今回は、夕刻に視力の低下が始まりました。就寝するころにはかなり落ち、夜中に目覚めたときには“うろこ目”になってしまっていました。
  さて、その“うろこ”が、時の経過とともに、厚くなったり薄くなったり、あるいは、大きくなったり小さくなったりするように感じるのはなぜか?
  11月に訪ねたフィリピンの病院では「“うろこ”が水晶体の中を移動するのではないか」という仮説を医師に向けてみましたが、答えは「移動はしない」というものでした。…移動しないのなら、なぜ?「体調や天気、周囲の明るさの違いのせいだろう」というのが医師の回答でした。
  10歳のときから近視用のめがねを使っていますから、目を細めると、その間だけは視力がいくらかはましになることを経験から知っています。今回、目が再び“うろこ”状態になったときに、ふと、光を通さない厚紙に(針穴写真機のような)穴を開けて、その穴の向こう側を見てみようと思いつきました。めがねでは視力が矯正できないことはもう分かっていましたから、針穴(実際には、千枚通しで開けた大きさの穴)を通せば見え方が違うかもしれない、と考えたわけです。
  幾分でも視力が回復した?
  いえ、いえ、思ってもみなかったものが見えたのです。
  “うろこ”そのもの、“うろこ”の正体が。
  右目についていえば、水晶体の中心から左上方に向かって、右下方から、濃い、黒い“雲”がかかり、その周囲を、水晶体全体をおおうように、濃淡がいくらか異なる灰色の“雲”が取り囲んでいたのです(医師の方からは左右が逆に見えるはずです)。
  これでは“うろこ=雲”の向こう側、外界の光景が網膜に届くわけがありません。ほとんど“失明”状態になっていたのは当然です。
  左目については、水晶体のいくらか左下方に、黒い、小さめの“雲”がありましたが、全体をおおう灰色の“雲”は見えませんでした。外界の光景は(近視用のめがねを通して)ほぼ正常に網膜に届いていたはずです。
  さて、いったんは“うろこ”状態になった目はどうなるのか?その理由の見当は、なぜ“うろこ”状態になるのかということとおなじように、まったくつきませんが、初めの三回は、ほぼ4〜5日後には、今回は10日後には、ほとんど元の状態、視力に戻っています。その“ほとんど元の状態”というのが、回が重なるごとに、少しずつ、視力が悪い方へと向かっているようには感じますが…。
  ですから、“うろこ目”が最悪の状態のときに訪ねれば、医師はおそらく「いますぐにも手術を受けた方がいい」という結論を出すでしょうし、“雲”が水晶体のかなりの部分をおおっているときには、フィリピンの医師がそうであったように「なるだけ早く」と見立てることになるのでしょうね。
  5月には再び日本に戻ります。検査を受けます。さて、右目はどういう状態になっているか?
  11月には運転免許証を更新しなければなりません。そのときまでには、数か月ごとに襲ってくるこの“うろこ目”から解放されているようにと願っています。


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