読売新聞(インターネット版 2011年10月29日)に【日本ハム、菅野指名巡り東海大側に謝罪】と題した記事がありました。<日本ハムの大渕隆スカウトディレクターは、ドラフトの戦略上、菅野の周囲や大学側に事前に指名あいさつを行わなかったことが、困惑を与えたことを同大側に謝罪したことを明らかにした>という内容でした。
<事前に指名あいさつを行わなかった>のには、競合するはずの他球団には察知されたくないという重要なビジネス戦略上の理由があったのに、謝罪した、ですって?いかにも、日本にはいくらでもありそうな、おかしな話ですね。
日本のプロ野球のドラフトというのは、少なくとも、特に有望な選手に関しては、実はドラフトとは名だけで、結局は、一人のプレイヤーをすべてのティームが指名することができる、事実上の“抽選”制度なのです。<事前のあいさつ>が重視される、すこぶる歪んだ制度なのです。
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プロ野球【選択会議の選択方法】(ウィキペディア)
+1巡目は入札抽選である。つまり、参加する全球団が同時に選手を指名して、指名が重複した場合には抽選を行う。抽選に外れた球団については、抽選に外れた球団のみで再度入札抽選を行い、全球団の1巡目指名選手が確定するまでこれを繰り返す。
+2巡目は「球団順位の逆順」にウェーバー方式で選択。
+3巡目は2巡目と反対の順番(逆ウェーバー方式)で選択。
+4巡目以降は、ウェーバー方式と逆ウェーバー方式を交互に行い、すべての球団が選択の終了を宣言するまでこれを続ける。ただし、指名選手の合計が120人に到達した場合は選択の終了を宣言していない球団があっても終了する。
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アメリカのプロスポーツでは、原則としては、前のシーズンで下位の成績に終わった方のティ−ムに優先して指名権が与えられます。各ティームは、それぞれに得た指名権をそのまま行使することができるほかに、その権利を他のティームに譲り、その対価として将来のドラフトでの指名権を得たり、他ティームの支配下プレイヤーを獲得したりすることもできるのですが、原則はあくまでも、前シーズンの下位ティームに力をつけさせようというのがその趣旨となっています。各ティームの力をできるだけ均等にして、伯仲する試合をファンに見せたいという思いがそのまま表れた合理的でビジネスライクな制度だと言えます。
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【NBA=National Basketball Associationのドラフト制度】(ウィキペディア)
現在は、前シーズンに成績の悪かったチームから順番に指名していく方式に、1巡目上位3位までは例外を設けプレーオフに進出できなかった14チームによる抽選(ロッタリー)で指名順位は確定される。これは1985年当時のドラフトが勝率の低い順から指名が出来る制度であり、注目選手であったパトリック・ユーイングを獲得するため、リーグ最低勝率を目指して下位チームがわざと負ける事態になったことによる。
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ところが、日本では、そのドラフト過程で、指名するつもりのプレイヤーにティーム側が<あいさつ>をする?そんなばかな。
ドラフトは各ティームにとって、戦力を上げるための、ほかのティームの出方をうかがいながらの、いわば“もう一つの戦場”なのですよ。指名前の<あいさつ>で、自分たちの補強計画を、他のティームに知られ、台無しにしてはならない、と思ったからこそ、日本ハム球団も事前の<あいさつ>をしなかったのでしょう?あとで謝罪したというのはまるきり解せない話です。
あまりにも日本的な、情を絡めた、非生産的な話です。
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こんな記事もありました(SANSPO.COM 2011年11月8日)。
<プロ野球ドラフト会議で巨人との競合の末、日本ハムがドラフト1位指名した東海大・菅野智之投手(22)が7日、神奈川・平塚市内の同大野球部合宿所で日本ハムから指名あいさつを受けた。約1時間に渡る会談を終えて「直接会って、すっきりした」と好印象を得たが、進路については「11月いっぱいはしっかり考えたい」とこれまでどおりの慎重姿勢を貫いた><夢は伯父の巨人・原辰徳監督(53)と同じユニホームを着ること。「目先のことだけではなく、その先の野球人生を考えた上で決めるのが大切です」とキッパリ話した><これまで祖父で東海大野球部顧問の原貢氏(76)が「大学の施設も使えるし、1年間基礎体力を鍛えればいい」と話しており、菅野の周囲では、東海大グループの大学院への進学を軸に“浪人準備”が着々と進められている。日本ハム入団を拒否し、来秋のドラフトで巨人の1位指名を待つ構えだ>
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アメリカのもの比べると、日本のプロ野球のドラフト制度がなんともすっきりしないものになっているのは、ある球団にいったん入団してしまうと、もともと希望していた球団へ移ることが極めて困難だという事実があるからです。つまり、フリーエイジェントとして契約球団を自分が好むように選べるようになるまでが(8年間と)長すぎる、ということです。
上の記事で触れられているような入団拒否を、選手自身のためにも、そのスポーツ界全体のためにも、避けるためにはフリーエイジェントの資格を得るまでの期間を、たとえば、(一軍在籍期間)5年程度にまで短くするべきです。
短くすれば、ドラフトで、ある特定の球団入りを望む者が、たとえ不本意な下位球団に指名されても、その“5年間”さえ待てば、そのあとで自らの“権利”を行使して希望する球団に移ることもできるのですから、入団拒否が減るとともに、ドラフト制度を、下位球団に優先的に指名権を与え、球団間の実力差を縮めるという、本来のものに近づけることもできます。全球団が参加できる<抽選>を制度の中に取り入れる必要もなくなります。
フリーエイジェントの資格を獲得するまでの期間を短くすると、資格を得た有力選手が金持ち球団に移るのが早まるだけで、地方・小球団が不利になるという恐れもありますが、下位球団優先のドラフトを同時に、厳密に実現しておけば、有力選手を最初から金持ち=有力球団に持っていかれることなく、短くとも、その(5年間)という期間は支配下に置くことができるのですから、かならずしも悪いアイディアではないはずです。
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日本のプロ野球で問題があるのは<一巡目の抽選>だけではありません。<二巡目は下位球団から、三順目は上位球団から>といった不明朗な小細工もそうです!プロ野球はいったい何を考えているのでしょう?球団間の潜在的な“実力”をできるだけ均等になるようにしたいのか、そんなことはどうでもいいのか?そんな基本の姿勢、態度すら固まっていません。
日本のプロ野球には確固としたポリシーというものがありません。読売ジャイアンツのような有力球団にも、いくつかの弱小球団にも気を配った中途半端な制度を“良し”として、ビジネスを厳密にビジネスとしてやる気がありません。
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ドラフト制度というのは球団(職業)選択の自由という基本的人権を妨げるものだ、という(読売ジャイアンツが主唱する)声が一方にあります。日本のプロ野球は、言葉の本来の意味からは程遠いドラフト制度しか持っていないのに、よくそんな声が上げられるものです!現行の“不細工”な制度でも、それがあるからプロ野球はかろうじて白熱した試合を少なからず展開することができているし、それを期待して球場に足を運ぶ観客を集められるのです。ドラフト制度を廃止してみたらどうなります?800万部とも900万部とも言われる読売新聞の発行部数=宣伝・資金力と、東京首都圏を本拠地としているという潜在ファン層の広さと厚さを背景にして“読売独走”というシーズンが(九連覇した長島・王時代のように)つづくことになるでしょう。地方の小球団が日本一になる可能性は極めて小さくなるでしょう。
そんなプロ野球を見たくはありません。たとえ球団選択の自由を当初は制限されても、プロ野球界入りを望む選手は、野球をすること自体を拒まれているわけではありません。プロ野球選手という職業にはちゃんと就けるのです。
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ドラフト制度というのは、そもそも、そのスポーツ全体の質を向上させようという目的で考案されたものでしょう?
<一巡目の抽選制度><二巡目は下位球団から、三順目は上位球団から>などといったゴマカシからは訣別すべきです。
プロ野球ビジネスを衰退させないためには、まずは、ビジネスそのものをビジネスライクに行わなければなりません。
<抽選会>の前に指名予定者にあいさつをしなかったことが問題視されるような情緒偏重は(東海大野球部顧問の原貢氏のような利己的な人物をはびこらせて)プロ野球の興隆を妨げるだけです。