再々掲載  第267回  文言の“削除・改変”は不可 “追加”は可 (2013-02-08)

日本国憲法
 第九章 改正

  第九六条【改正の手続、その公布】1 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 第十章 最高法規

  第九九条【憲法尊重擁護の義務】天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ

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  【首相発言 民主問題視 96条緩和 参院幹部が批判】(2013年2月7日 東京新聞 朝刊)

  <問題の発言は先月三十日の衆院本会議での各党代表質問で、首相が改憲に関し「党派ごとに異なる意見があるため、まずは多くの党派が主張している九六条の改正に取り組む」と明言したもの。歴代の首相は、国務大臣憲法の尊重と擁護を義務付けた憲法九九条などに配慮し、国会で踏み込んだ改憲発言は避けてきた。池口氏は安倍首相の異例の発言を批判した>

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 安倍晋三首相(自由民主党総裁)が日本国憲法から第二章〔戦争の放棄〕の第九条【戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認】を削除しようと考えていることは周知の事実です。

  第九条というのは

  1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

  2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

  という内容になっています。

  つまりは、安倍首相(を含めて、第九条を削除しようという人たち)が<「陸海空軍その他の戦力」は保持すべきだし「国の交戦権」も認められなければならない>と信じていることは疑いないということです。

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  さて、法律のしろうと・門外漢が日本国憲法を素直に読むと…

  第九九条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあるのに、第九六条に「改正の手続」が定められているのはおかしい、あるいは、矛盾するのではないか、という疑問に襲われます。

  だって、「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」国会(議員)が「この憲法の改正」を「発議」することができる、というのですから。

  どういうことなのでしょうか?

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  憲法論議には、それに加わる人の数とおなじ数の説があるのかもしれません。

  しかしながら、この問題に関する最も自然な憲法解釈は…

  「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ…天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」は“日本国憲法内の文言を削除したり改変を加えたりすることは一切できないが、新たな文言を追加して憲法を改正することはできる”というものではないでしょうか?

  第九条を削除したり、その文言を改変したりすることも、第九六条の「三分の二以上」を書き換えることも「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」にはできないということです。日本国憲法の「改正」は、「章」あるいは「条」を“追加”する形でしかできないということです。

  そう解釈すると、総理大臣・安倍晋三氏の<第九条の“削除”を実現するために、まずは第九六条の中の“三分の二以上”という文言の“改変”を>という考えは日本国憲法に違反している疑いが非常に大きい、ということになります。

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 第十章 最高法規

  第九八条【最高法規、条約及び国際法規の遵守】1 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない

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  安倍首相が日本国憲法の文言を削除したり改変したりする道を強引に選ぼうとしても、その「行為」は日本国憲法の「条規」に反するわけですから、初めから「効力を有しない」ということになります

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 [2017年5月4日 追加]
 「朝日新聞 社説」(2017−05−04 http://www.asahi.com/articles/DA3S12922579.html?ref=editorial_backnumber)

  <安倍首相はきのう、憲法改正を求める集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。
  <首相は改正項目として9条を挙げ、「1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むという考え方は国民的な議論に値する」と語った。

  ** 改めて付言するまでもなく、安倍首相が目論んでいるはずの、現行日本国憲法の主旨・精神を改ざんする内容の「加憲」も、「その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部」に含まれますから、「効力を有しない」違憲行為に当たります。

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