再掲載 : 第15回 いやあ、ぶつけられてしまいました! (2005年12月)

  <2005年の12月に書いた文章です。事故が起こったのはカリフォルニア州リヴァーサイド郡のヘッメット市内でした>

  今回は交通事故にあってしまったという話です。

  長い文章ですが、アメリカでの交通事故の処理などに興味がある方は読んでください。

  きのう、12月8日、正午をほんのちょっと過ぎたころでした。

  わたしは自分の<FORD ESCORT ZX2>(2ドア・クーペ)を運転中。自宅近くのDevonshireという東西に走る通りを東に向かっていました。

  ぶつけられたのは、Stateという南北に走る通りとの交差点でです。Stateを北に向かっていたカローラが<全4方向一旦停止>のストップサインを無視して交差点に突っ込んできたのです。

  わたし自身はエスコートを一旦停車させ、自分の順番を待って交差点に入っていました。

北向き道路を半分以上横切ったとき、右側にダークブラウンの車が見えました。

  ですが、「あ、まずい」と思った次の瞬間にはドンという大きな音が聞こえ、右側から横なぐりの衝撃を感じました。

  ぶつけた方のカローラはほぼ北向きのまま停まっていましたが、わたしのエスコートはほぼ180度回転して、西向きになってしまいました。

  Stateは比較的に交通量が多い通りですから、瞬く間に、車がたまり始めました。

  <幸いなことに!>エスコートはまだ動きそうでしたので、わたしは車をDevonshireの端っこに移しました。ぶつけてきた婦人も自分のカローラを交差点の東北のコーナーにある空き地に移動させました。…双方がその程度ですんだのはやはり<不幸中の幸い>だったのでしょう。

  交差点の流れはすぐに元の状態に戻りました。

  エスコートを停めた角には(皮肉なことに)自動車の修理・整備工場があります。建物の前に立って話をしていた3人が「やあ、あてられちゃったね!」といような表情でわたしを見ていました。

  そのときです。一人の男性がわたしに近づいて来たのは。

  男性は、この事故を目撃した日時<12・8・05>と自宅の電話番号をすでに手書きした自分の商売用の名刺をわたしに手渡しながら言いました。

  「彼女の方に非がある。もし必要だったらわたしが証人になってやるから」

  実にありがたい申し出でした。

  あとで、わたしの保険代理店(TSUNEISHI)に報告の電話をかけたとき、代理店の女性は「それはよかったですね。事故がロサンジェルスで起きると、証人になってくれる人がいなくて、証人探しで被害者が大変な思いをすることが多いのですよ」と言いました。

  わたしが住む小さな市、ヘメットにはまだ親切や思いやりを大事にする人たちが少なくないようです。ありがたいことです。

  いや、少しあとでわたしにも分かったことですが、実は、警察官はほかにも二人から同様の証言を得ていました。この二人とはわたしは接触していません。礼を言う機会を失してしまいました。

  三人の証言は、さらにあとになって、この婦人が警察官に向かって「わたしは一旦停止をした」と言い張ろうとしたとき、警察官が「いいえ。あなたは一旦停止しなかったどころか、スピードを落とすことさえしていません。証人が3人います」と応じるという形で、わたしの主張を支えてくれました。

  だれかが「警察に報告しなければ」と言っているのが聞こえました。ですが、わたしも婦人も携帯電話機は持っていませんでした。

  にもかかわらず、救急車とパトカーはすぐにやって来ました。警察署と救急車の基地は、実は、事故現場とは2~300メートルしか離れていないところにあるのですが、それにしてもすばやい駆けつけでした。目撃者のだれかが電話をかけてくれたのでしょう。

  救急隊員がわたしに「だいじょうぶか?」と尋ねてきました。わたしは「動けるし、喋れるが、鈍い痛みを首に感じる」と答えました。

  隊員は次に「車は動くか?自分で運手して帰宅できるか?」と聞いてきました。「帰れると思う」と応えると、「分かった、だけど、帰宅したあとでも急に気分が悪くなるようなことがあったら、すぐに<911>(救急電話番号)してくれ」と言ってくれました。

  「首の痛み」は事実でした。そのとき空元気をだして「問題ない」と答えておくと、万が一にも、あとで悪化して相手の保険(ALLIED)を使おうという事態になったときに、そのALLIEDに「現場であなたは救急隊員に<問題ない>と答えています。いまになって痛いと言い出しましたが、<仮病>ではありませんか」などと言われる恐れがあることを(わたしの友人の体験談を聞いて)知っていたからです。

  そのあとは警察官との会話になりました。

  警察官はまず、規則どおりに、婦人とわたしの双方に<運転免許証>と<自動車保険加入証書>の提示を求めました。婦人の方にも不備はありませんでした。

  相手側が保険に入っていないと、当然、自分の保険を使って修理させることになります。わたしが加入している保険では、修理費用500ドルまでは自分持ち、それを超えた分は保険会社が負担することになっていますから、この婦人が保険に加入していなければわたしは、自分に非がまったくないのに、500ドルを出費させられるところでした。

  警察官は次に、当事者同士がそれぞれの住所・電話番号・保険会社などの情報を交換するための用紙を手渡し、記入するよう求めてきました。

  わたしはもともの大の悪筆。婦人の方も動揺のせいか読みにくい字で記入したとみえて、この用紙への記入は結局、警察官が代筆してくれました。

  --- ところで、そうしている間に実は、目を疑うようなことがあったのですよ。

  車が一台、一旦停止サインを完全に無視して、Stateを南から北へ走り抜けたのです。それだけではありませんでした。報告書に書き込みをしていた警察官が(あきれて首を横に振りながら)、もう一人の警察官に「いまの見た?」と言っているあいだに、今度はモーターバイクが一台、前の車を追っているかのように、こちらもサインを無視して、交差点を突き抜けて行ったのです。

  事故処理中の警察官は、現場を放り出してそちらを追いかけるわけにもいかず、ただ苦笑していました。

  特に事故が多い交差点ではありませんので、サイン無視がたまたま短時間のうちにつづいた、ということでしょうが、恐ろしいことです。

  現場でのこうした手続きが終わるまでには45分間ほどかかったと思います。

  自宅に向かう途中、右の後輪はぎしぎしきしみながら回転していました。Escortの被害状態を見た警官が「右の後輪のアラインメントが狂ったようですね」と言っていましたが、そのとおりでした(この修理費は高くつくかもしれません)。

  カローラはその後輪からドアにかけてぶつけてきたわけです。

  ドアなどのへこみ具合を見ると、運転席がある左側にぶつけられたのではなかったことが<よかった>と思えます。左側だったらわたしはいくらか負傷していたかもしれません。

  自宅に戻ってからの方が大変でした。

  わたし自身の保険代理店と保険会社、婦人の保険会社の三個所に電話をかけなければならなかったのです。

  代理店はすぐに“実際の”人間が出てくれましたから、まあ手間はかかりませんでしたが、保険会社は二つとも、無料ラインに電話をかけると、(大きな会社ではいまではどこでも同様ですが)まずテープに録音された声をきくことになり、その声の質問に答えながら、担当セクションにたどり着くという手はずになっていました。

  一つでは、こちらの電話機のボタンを押しながら。他の一つでは、自分の肉声で答えながら。

  この<自分の肉声で答えながら>というのは(少なくとも、わたしには)やっかいな代物です。ボタンを押して答える方法には<選択肢>があるのですが、<肉声>にはそれがないので、何と答えたらいいのか、ちょっと迷ってしまうのです。さらに、英語のネイティヴスピーカーではない者は、自分の発音がちゃんと認識されるだろうかという心配もしなければなりません。

  さて、最初に電話をかけたわたしの代理店では、どういうふうにことを進めて行けばいいかの基本的な知識を得るつもりでした。電話に出たのは、過去17年間に何度も話したことがある(声が実に魅力的な)ジーンという女性。ジーンは親切に対応してくれましたが、<自分の保険代理店に報告をすれば、この代理店の担当者が相手(婦人)の方の保険会社(ALLIED)と交渉して、相手(婦人)側の負担でわたしの車が修理できるようになるのではないか>というわたしの期待については、残念ながら、「ノー」。やはり、わたし自身が電話しなければならないとのことでした。

  次に電話したのはわたし自身の保険会社(SAFECO)です。ここに報告しておかないといけないというのは、主に、たぶん、相手(婦人)側が自分の方の車を(不当にも)わたしの保険を使って修理させようとしたりする恐れがあるからなのでしょう。

  わたしが相手(婦人)の保険を使おうという場合、システムは、わたしの保険会社(SAFECO)がわたしに代わって向こうの保険会社と交渉するようにはなっていない、とSAFECOからも言われました。代わりに、わたしは婦人が加入している保険会社(ALLIED)の電話番号をもらいました。事故について長々と説明した後、わたしが受け取った情報はそれだけです。

  仕方がありません。ALLIEDに電話をかけ(自分の肉声で答えながら担当者にたどり着き)、事故の状況をまた最初から報告しました。この担当者の最後の言葉は「分かりました。では明日に、(修理にいたるまでの具体的な過程を説明する?)別の担当者に電話をかけさせる」というものでした。

  この文章は、9日、その電話を待っているあいだに書いています。

  これから、不自由で面倒な日々がつづきそうです。

  修理には(わたしが見たところでは)ゆうに一週間以上はかかりそうです。

相手(婦人)の保険会社は、わたしにレンタカーの使用を認めるはずですが、借りに行くなどの手間を強いられるのは被害者のわたしです。

  実際、加害者は、自分の保険会社に報告すれば、あとは、事実上、何もすることがありません。被害者が、自分の時間を使って、あちこち奔走させられるわけです。

  公平ではないシステムだと思いますが、仕方がありません。

  <後日談>があれば、折を見て、報告します。

  ―と書いてから数時間後。

  相手方の保険会社(ALLIED)から電話がかかってきました。要約すると「あなたの申し立てに間違いがないかどうかを証人に問い合わせたり、車(エスコート)のダメッジ具合をチェックさせたり、警察から事故処理報告書のコピーを取り寄せたりするのに三週間ほどかかる。そういう手続きが終わるまで、あなたは車を修理に出すことができない。レンタカーも借りられない。だが、あなたが自分の保険を使ってやれば、すぐにも修理に持ち込むことができる。あなたの保険会社(SAFECO)はそのあと、こちらに修理費やレンタカー使用料などを請求してくることになる」というようなことでした。

  わたしは、500ドルの自己負担分も持ってくれるよう求めました。(自分の方の保険保持者の落ち度がはっきりすれば)「それも持つ」との答えでした。

  となれば、三週間も車なしで過ごさなくてもいいことになります。今日中には、わたしの方の保険会社から電話がかかってくるはずですから、この線で話を進めることになると思います。

  ―ついさきほど、カローラの婦人から電話がかかってきました。この婦人が言いたかったのは「自分の保険は、相手に与えたダメッジはカヴァーするが、自分の方のダメッジについてはカヴァーしていないから、あなたの保険で修理させてくれないか」ということでした。

  わたしは、わたしの保険会社の電話番号を伝えはしましたが、婦人の頼みは拒みました。わたしの保険会社が、わたしに非がない事故で、加害者の方のダメッジをカヴァーするわけがない、ということがこの婦人にはまだ分かっていなかったようです。

  ―その直後に、今度は、事故処理を担当した警察官から電話がかかってきました。きのう控えた証人の電話番号が違っているようだ、確かめたい、ということでした。

  警察官は数字の並びを間違って控えていました。証人の現住所と生年月日が証拠として必要なのだそうです。…警察官にも事務的な仕事がたくさんあるようですね。

  ―そのまた約一時間後。

  昨日の約束どおりに、わたしの方の保険会社(SAFECO)から電話がかかってきました。まずはわたしの保険を使って修理を早くすませ、相手方の保険会社(ALLIED)にあとでSAFECOが、例の500ドルを含めて、弁済を求める、ということになりました。

  そこで早速、わたしは、いやがるかのように後輪がきしむエスコートを運転して、幸いにも遠くないところにあった(SAFECOが指定する)ダメッジ見積もり所(実はGMビューイックのディーラー)に行きました。ですが、見積もりは予約制になっていて、わたしは月曜日(12日)まで待たなければならない、ということでした。

  後輪のゆがみは最初に考えていたより大きくて、乗って自宅に戻れる状態ではありませんでしたから、結局、その場でレンタカーを借りることにしました。ENTERPRISEというレンタカー会社には、客の送り迎えサーヴィスがありますから、そこを利用しました。

  GMのMALIBUという車を(選択の余地なく)借りました。基本的には、この費用はSAFECO(最後にはALLIED)が持ちますが、MALIBUにかける保険はわたしの負担になります。一日12ドルです。修理が長びくと、それだけわたしの支払いが大きくなります。…割に合わない話ですよね。

  ということで、とりあえず、わたしは<自分の脚>(レンタカー)を確保し、再び動けるようになりました。

  月曜日には、見積もり所から修理見積もり金額を知らせてきます。その金額をわたしはわたしの保険会社(SAFECO)に伝えます。そのあとは、三人の証人が心変わりしない限りは、修理がすむのを待つだけです。…そのはずです。

  いやいや、ほんとうに大変な一日半でした。